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第3章 ご家族の方へ
① 家族の陥りやすい心理
アルコール依存症は家族や周囲を巻き込む病気です。
その影響力はすさまじく、「アルコール依存症の周りにはもう一人病人が出る」と言われるほどです。しかも、ある日突然、依存症になるわけではなく、長い年月をかけて進行していくため、知らず知らずのうちに巻き込まれていくのです。
それでは、家族が陥りやすい心理について見ていきましょう。ご自身にあてはまるものがあるでしょうか。
1 なんて意思が弱いんだろう
お酒をやめようとしてもなかなかやめられないので、家族は「意思の弱い人」として本人を見るようになります。しかし、本人は脳からの強迫的な指令によって飲酒しているため、「意思の力」ではなかなかやめることはできません。これは当然の話です。風邪をひいている人に、意思の力で咳を止めるように、熱を下げるように言っているようなものです。この強迫的な指令については、「第1章 ③脳のメカニズム」をご参照ください。
2 酒好きにも困ったものだ
「お酒が好きで飲んでいる」、はたからはそう見えます。確かにはじめはそうだったかもしれません。しかし、さまざまな問題が出始めている今に至っても飲み続けているというのは、もはや「好きで飲んでいる」からではありません。これも、脳からの強迫的な指令によって飲酒していると考えるのが正解です。本人の口から出る言葉(「自分の金で好きで飲んでて何が悪い」など)が混乱を招くのですが、これは病気が言わせている言葉、なのです。決して好きで飲んでいるのではなく、もはやお酒に支配されている状態です。
3 もう少し飲む量を減らしてくれればいいのに
「別にやめてほしいなんて思ってない、飲みすぎないでくれればいいんです」
こうおっしゃるご家族は少なくありません。本人が好きなものを全部取り上げようとするつもりなどない、そのようなお気持ちなのだと思います。
しかし、これは病気に対する知識がないために出てくる言葉とも言えます。依存症の本質は「コントロール喪失」です。もはや「適当なところでやめておく」というブレーキは壊れてしまっているのです。できないことを期待するのはやめましょう。
4 とんでもない嘘つきだ
アルコール依存症の人はよく嘘をつきます。症状のひとつと言ってもいいくらいです。これは、「強化されたアルコール探索行動」のひとつで、なんとしてでもアルコールを摂取せよという脳からの指令で起こる行動です。(「第1章 ④病的な飲み方と行動パターン」参照)
もう一つのパターンとしては、酔っていて覚えていない、ということがあります。飲んで記憶をなくすようになることをブラックアウトと言いますが、この状態になると、そもそもなにを言ったのか覚えていないので、約束の守りようがありません。
5 「離婚する」と脅しても酒をやめてくれない
まず、脅しでなにかを言うことはやめましょう。実行する気がないことを言っても、「どうせ脅しだ」と思われて、言葉の信用性をなくすだけです。脅しで状況が変わることを期待しているのは、これが病気であると思っていないからではないでしょうか。脅しで治る病気はありません。
6 飲ませないようにお小遣いを取り上げた
これもよく聞く方法ですが、お小遣いを取り上げてうまくいった、という話は聞いたことがありません。たいていが、家族の財布からお金をくすねたり、自宅にある服や本などをリサイクルショップに売ったりして小金を手に入れ、お酒を買っています。わざわざお酒代を渡すことはありませんが、取り上げても無駄なので、効果のないことに労力を使うことはやめて別の方法を考えましょう。
7 一日の飲酒量を決めて守らせようと思う
まずはこれにトライした方も多いのではないでしょうか。定額制もしくは定量制です。最初の数日はうまくいっても、そのうち理由をつけてオーバーしたり、隠れ飲みするようになります。3のところでも述べましたが、この病気はコントロール喪失の病で、脳のブレーキが壊れてしまっているのですから、そもそもできるわけがないのです。
8 家族よりお酒が大事に違いない
何度交わしても破られる約束、子どものことを言ってもダメ、離婚話を持ち出してもダメ、挙句の果てには暴力・暴言・・・これでは「家族よりお酒の方が大事なんだ」と思ってしまっても無理はありません。しかし、これは本人の性格の問題ではなく、病気から起こっていることだということを知ってください。家族がこんなに困り果てているのにお酒がやめられないのは、病気だからなのです。本人も病気に苦しめられている患者なのです。
9 生活費を出して立ち直るように支援しているのに酒をやめてくれない
家族が立ち直らせなくてはと、アパートを借りて住まわせたり、生活費を出して支援している場合があります。これ自体は悪いことではありません。問題はその経済的支援が、酒代になってしまっていることです。問題に気づいたら、無期限に経済的支援をすることはやめましょう。治療を受けるのであれば支援する、治療は受けず、自分なりの方法でやる、というのであれば経済的にも自立してもらう、この2択です。家族が本人に注いでいるつもりの愛情とお金が、本人ではなく、病気をブクブクと肥大化させてしまう場合があります。厳しい愛情(tough love・見守る愛)を持ちましょう。
10 会社にお休みの電話、タクシー代の支払い、飲み屋のツケ、汚した衣類の洗濯・・・家族はこんなに大変!
尻ぬぐい、していませんか。本人が酔ってしでかしたことの後始末を家族がするのは愛情からです。会社を首になったら家族が経済的に困る、という場合もあるでしょう。しかし、この愛情は本人ではなく、アルコール依存症という病気を支えてしまっているのです。家族が困って、本人が困らない・・・これがこの病気の特徴でもあります。お酒を飲んで何が起きているのか、酔って覚えていないのであれば、正しいことを知ってもらう必要があります。その機会を奪ってはいけません。もちろん、命に関わる場合は別です。雪の日に玄関の外で寝込んでしまったら命に関わります。その場合は家の中に入れて、最小限のケアにとどめましょう。汚した衣類は自分で洗ってもらいましょう。タクシー代が払えなければ運転手さんに通報してもらえばいいのです。家族がどう行動すればよいのか、については「③ イネイブリングと共依存」をご覧ください。